一本の地酒をもっと楽しもう!〜いづみ橋(泉橋酒造)編〜

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こんにちは!日本酒のきき酒師の漫才師「にほんしゅ」の北井です!

全国に数多ある日本酒の銘柄。それぞれの地酒の背景を知ったり、地元の料理と合わせたりすると地酒がより一層おいしく感じるものですね。日本酒はシチュエーションが美味しさに大きく影響するお酒だと思いますので、その地酒に合う音楽や映画、漫画などのエンタメと共に飲んだりするのも最高の楽しみ方だと思います。
唎酒師の漫才師「にほんしゅ」の北井一彰が、ただの酒好きとしての主観も交えながら「この一本をより美味しく、楽しく!」という思いで一本一本の地酒の楽しみ方をお伝えします。

都心からのアクセス抜群!神奈川県海老名市の地酒「いづみ橋」はどんな日本酒?

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「いづみ橋」の泉橋酒造さんは地元での酒米栽培にも取り組む酒蔵さん。蔵のすぐ横に広がる田園風景を見ると心が和みます

今回ご紹介するのは新宿から小田急で小一時間と都心からのアクセスも抜群の神奈川県海老名市の泉橋酒造さんです。主要銘柄は「いづみ橋」。

酒米作りへの取り組みや伝統的製法「生酛仕込み」への注力など、とても勉強になることが多い上にアクセスもいいのでコンビで何度も訪問させていただき、取材や見学でお世話になっている酒蔵さんです。

私自身、海や田んぼに囲まれた田舎で育ったもので「ちょっと都心から離れて田んぼの空気を感じたいなぁ」という時が定期的にやってきまして、そんな時に最高にありがたい場所が海老名です!海老名駅前は開発も進み、買い物にも便利で人気の街ですが、そこから徒歩15分ほどで到着する泉橋酒造さんのあたりまで行けば、のどかな田園風景が広がりなんとも心が和みます。

「酒造りは米作りから」地元農家さんたちと力を合わせての米作り

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丁寧に田んぼの解説をしてくださる6代目蔵元の橋場友一さん(写真右)。いつも爽やかな笑顔で迎えてくれます

安政4(1857)年創業。首都圏にありながら「酒造りは米作りから」という信念のもと、「栽培醸造蔵」として日本酒ファンの心を掴む泉橋酒造。

日本酒の大量消費の時代が過ぎ去って久しく、品質や個性が重要視されるようになった近年では、より「地酒化」するために地元エリアの酒米を使ったり、自ら地元農家さんと協力して酒米作りに取り組む酒蔵さんも増えましたが、30年近く前からその取り組みをはじめ、「酒蔵が自ら酒米作りもする」という動きの先駆けとなった酒蔵さんの一つが泉橋酒造さんと言えるでしょう。

泉橋酒造さんは「さがみ酒米研究会」という原料米の研究・栽培会を組織されています。地元の酒米生産者、JAさがみ、神奈川県農業技術センターの協力のもと、海老名市、座間市、相模原市にまたがる約46ヘクタールもの(2019年度時点)面積で原料米を栽培。蔵人さん自らも田んぼに入り、原料への理解を深められています。

30年近く継続される酒米作りのメリットは色々とあるようです。秋に収穫が終わってから土の肥料成分などがどうなったかを蔵人さん自身が調べます。田植えをして育てている最中はそこまで詳しく調べられないので天候や稲の状態を見て追肥されるのですが、「それがちゃんと効果的だったのか?」という答え合わせが自分たちでできるというのがとてもいいそうです!

そして結果を見て、次の田植えをする春までに足りなくなった栄養を見極めて土を作っておく。それが安定した米作りに繋がるのだそうです。

長年の蓄積によって、温暖な海老名には西日本生まれの品種である山田錦や雄町など収穫時期が遅い晩稲の品種が合ってるみたいだな、というのが分かってきたり、酒米の品質が特に重要視される米麹用の酒米は「この農家さんのお米かな」なども大体決まっているそうです。

米作りは延々と続くストーリーですね!こういうストーリーを知って飲むと「より日本酒が美味しい!」と僕は感じます。

蔵元の橋場さんに聞いたお話で印象に残っているのが「どういう土壌で、どういう酒米が合っているかなども大切ですが、結局『人』がどういう思いでお米を作るのかが大切なのかなと。今はもう海老名でも酒米が作れることが分かったんですけど、それは僕が『酒米を作りたい』と動いたときにその思いを理解して協力してくれた地元農家さんたちがいたからこそ、ですからね」というお話。

これは心打たれました!「土壌」や「風土」はもちろん大切ですが、それを活かして「いい日本酒を造ろう!」とか「地元の農業をよくしていこう!」と行動に移すのは結局「人」なんですね。

「麹蓋」「生酛造り」手間暇のかかる製法へのこだわり

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日本酒造りの重要ポイント「米麹造り」にも手間暇をかける泉橋酒造さん

米作りから取り組む泉橋酒造さんは、米と米麹のみで醸される純米酒のみを造られています。

泉橋酒造では、すべての米麹を「麹蓋」と呼ばれる道具で造っています。麹蓋とは酒造りの伝統的な道具で、一般的な方法と比べるとおよそ3倍以上の手間が掛かるので、全てのお酒の米麹をこの方法で造られている酒蔵さんは非常に少ないと思います。

しかし、その手間暇がかかる分、水分量や温度のコントロールを細かく行うことができ、品質を管理しやすいようです。

「この製法を全ての米麹でやりたいです」と言ってきたのは蔵人さんの方からだそうで、生産者によって異なる酒米の特性を蔵人さんが知っているからこそ、それに合わせて微妙な違いを感覚で捉えることができるのだそうです。

蔵元さんや杜氏さんなど決定権のある人が強引に指針を示すのではなく、一番手間暇のかかる方法を自ら希望するような蔵人さんが集まる酒蔵さんなんだぁと感動しました。

酒米作りも手間暇のかかる酒造りも「人」が決めて進めていくものなんですね!

さらには生産量の50%を「生酛造り」で仕込んでいます。天然の乳酸菌を利用した、こちらも手間暇のかかる昔ながらの造り方で、奥行きのある味わいに仕上がります。

これも自然に寄り添う泉橋酒造さんのスタンスが見えるポイントですね。

何度も蔵を訪問するうちに気づいたのですが、泉橋酒造さんの蔵人さんには共通して「穏やかでナチュラル」な空気があるんです。絶対大声で怒らなさそうな(笑)。酒米作りや酒造りを通じて似た空気感をまとう蔵人さんたちの「泉橋感」も好きなんです。

「いづみ橋」のお供は超名作日本酒漫画「夏子の酒」と焼き鳥!

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「いづみ橋」のラインナップの一部。蔵のシンボルマークの赤とんぼが舞うラベルのお酒なども人気です

季節ごとのお酒も人気で様々なラインナップがある「いづみ橋」の日本酒ですが、共通するのは「あたたかな旨味と後味のキレ」だと感じます。

なんとも滋味深くあたたかな旨味がありつつ、繊細さ丁寧さも感じ、後味のキレがよく。海老名の田園風景が浮かぶようなお酒です。心地よく杯を重ねられるお酒ですしバランスがいいのでおつまみは選びませんが、こういうバランスのいい日本酒こそど真ん中のおつまみで楽しみたいです!

焼き鳥もも(たれ)、ふっくらのだし巻き卵などど真ん中に日本酒に合いそうなおつまみをガツガツっと食べて「いづみ橋」をクイッと飲めばそれで全ては解決!もうなにも考えなくていいのです。日本に生まれた幸せをシンプルに享受しましょう。

そしてその晩酌をより楽しませてくれるエンタメもオススメしたいのですが、今回は超がつく名作日本酒漫画「夏子の酒」です!

蔵の娘に生まれた夏子が酒米作りから酒造りに取り組み、究極の一本を目指す傑作日本酒漫画です。

農業・酒造り・人間関係・そして恋!本当に多岐に渡る見所があり涙なしでは読めません。
「夏子の酒」に影響を受けた酒蔵さんも数多く、蔵元の橋場さん自身も20代の頃に見た「夏子の酒」の漫画・ドラマに大きく影響を受けた一人で、酒米作りをやるきっかけとなったそうです。

そういう繋がりまで想像して飲むとより味わいに深みが出るでしょう。

「夏子の酒」や海老名の田園風景に思いを馳せ、より美味しく「いづみ橋」を飲んでください!

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それでは今夜も日本酒で乾杯!

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ライター紹介🍶

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北井一彰
『日本酒のきき酒師の漫才師「にほんしゅ」』として、相方のあさやんとともに全国のお酒にまつわるイベントでの日本酒漫才披露や司会、セミナー講師、各種メディア出演、コラム執筆などの活動を続ける。
【食卓には日本酒。話題には漫才師にほんしゅ。】を目標に、日々進化し続ける日本酒に追いつけるように奮闘中。
official website:http://nihonshu-sakemanzai.com/
Twitter:@nihonshukitai
Instagram:@kazuaki_kitai

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