ー福島県ー安達太良の地下水脈を守るー大七酒造ー

福島県の中部に位置する安達太良山は、彫刻家・詩人として有名な高村光太郎の詩集『智恵子抄』にも登場し、古くは『万葉集』にも詠まれた、今も活動を続ける火山です。

日本三井の一つもある銘水の地

春夏はヤエハクサンシャクナゲをはじめとする、さまざまな高山植物や美しい渓流が心をなごませ、秋には紅葉、そして冬には一面銀世界のスキー場と、四季を通じて楽しむことのできる日本百名山の一つでもあります。

その安達太良山を西に仰ぎ、中央を阿武隈川が流れる福島県二本松市は、豊かな自然や岳温泉をはじめとする温泉、そして国の史跡に指定された二本松城跡を有する、自然と歴史が調和した魅力ある街となっています。
また、二本松城跡に整備された県立霞ヶ城公園には、日本三井の一つとされる「日影の井戸」があり、名水の里としても知られています。

安達太良山の雪解け水に脈々と流れる「大七酒造」の歴史

この井戸と同様に、安達太良山の雪解け水が地中をくぐり抜けた清冽な伏流水を、創業以来、仕込み水に用いている酒蔵が、約270年の歴史を持つ「大七酒造」です。

大七酒造の構内には3本の井戸がありますが、面白いことに全て水脈が異なります。仕込み水として用いるのは、通称・中井戸と呼ばれる湧水量が豊富な1本のみ。
きめ細やかな酒質になる軟水と力強い発酵で秋上がりの酒が出来る硬水、その両方のいいとこ取りをした中硬水で、極めてバランスのとれた水です。生酛ならではの上質感ある酒造りを目指す大七酒造にとって天恵の名水といえるでしょう。

 
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大切な「仕込み水」を守ったエピソードを見てみましょう。

大切な“水”を守り切った、杜氏の英知

東日本大震災の際、この大切な“水”を守ったエピソードがあります。

「現代の名工」として厚生労働大臣表彰を受けた大七酒造の佐藤孝信杜氏は、あの激しい揺れが収まった直後、蔵人たちに「全ての井戸でポンプをフル稼働して水をくみ上げろ!」と指示しました。
確かに地中が揺れれば水が濁るので水を入れ替える必要が生じますが、杜氏の意図はそんな簡単なところにはありません。
「これほどの激震では水脈が変わる恐れがある、揺れの直後、まだ地中の水が迷っている間にどんどん水をくみ上げ、井戸に水が集まるように水みちを作ってやるのだ」と言うのです。

この英知には皆が驚嘆しました。おかげで地下水脈は無事に守られ、今も変わらず中井戸からは大七酒造の酒に最適な仕込み水が供給されています。

こちらにある写真は、一年間の邪気をはらう大七酒造の新年の行事「若水取り」の様子です。また、毎年1月には世界遺産・高野山の信仰の中心、奥の院から運ばれる沢水をお酒の醪に注ぐ「注水の儀」も行われるそうです。

大七の酒を通じて“水”に宿る人々の思いや、自然の神秘を感じてみるのもまた一興です。

 

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【文章引用元】
・交通新聞 2021年4月30日発刊『美酒漫遊の旅㊲ 安達太良の地下水脈を守る』より

【参考URL】

・交通新聞電子版 https://news.kotsu.co.jp/

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